2015年11月21日土曜日

9月30日コンサート評 ―音楽現代2015年12月号より


江崎萌子とウィーンの名手たち


 桐朋女子高卒業後、パリに留学中の新進ピアニスト江崎萌子がウィーンの音楽家たちとモーツァルトやシューベルトの室内楽を演奏。前半はモーツァルトで、まずはクリストフ・エーレンフェルナーと共にピアノとヴァイオリンのためのソナタへ長調K.377を演奏したが、両者共自発性に満ち、驚くほど音楽が息づいている。ことに全曲の中心を成すニ短調の第2楽章は憂愁に富んだ情感が素晴らしかった。次はヘルベルト・ミューラーのヴィオラと伊東裕のチェロが入り、ピアノ四重奏曲第1番ト短調K.478。重量感ある出だしから既に名演の予感が。江崎のピアノの透徹したタッチの生み出す愉悦とウィーンの名手たちによる弦の悲劇美の交錯は最高で聴き応え充分
 後半は本山耀佑のコントラバスが加わり、シューベルトのピアノ五重奏曲イ長調「鱒」。演奏が良くないとこれほどつまらない曲もないが、この日の演奏は別格。まだ死の影の差さない若きシューベルト特有の瑞々しい抒情がその所を得ていた。(9月30日、白寿ホール)  


浅岡弘和 (音楽現代 2015年12月号)


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